QLTS合格体験記

お久しぶりです。

少し前になりますが、イギリスのQLTS (Qualified Lawyers Transfer Scheme)という試験に合格しました。
あまり日本語での情報がない試験ですが、簡単にいうと、合格すれば他国の弁護士資格を持つ者がイングランド及びウェールズ*での法曹資格(Solicitor)を得ることができます。
*英国の法体系は結構複雑ですが、とりあえずイングランド及びウェールズ=英国というイメージで読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
なお、2021年9月からはイングランド及びウェールズの法曹資格へのルートは一元化され、SQE (Solicitor Qualification Exam)というQLTSと同形式の試験に一元化されます。おそらく、QLTS対策はSQE対策にそのまま妥当すると思います。ただし、SQEは、受験者の多くが英語非ネイティブのQLTSと異なりイギリス人も受けることになるので、受験者のレベルは上がり、結果としてQLTSよりも難しい試験になるのかもしれません。
試験は択一(MCT)と記述+口述(OSCE)に分かれており、MCTは日本でも受験することができます。私はMCTを日本で受験し、OSCEは(ほかに選択肢がないので)ロンドンで受験しました。

合格体験記が受験を考えられている方の参考になれば幸いです。
英語に自信があればチャレンジする価値は十分あると思います!

MCT(1月受験)
前年10月頃から対策を開始。QLTS Schoolという最大手?予備校のコースを受講。受講とはいっても、日本の予備校のようなインプット講義はなかったので、昼休みと深夜にテキストを読み、オンラインの演習問題を解いた。ちょうど仕事も忙しく、一日2~3時間くらいしか勉強時間を取れなかったので、MCTまでの勉強時間は180時間くらい。かなり少ない方だと思う。

テキストは一読だけして、あとはひたすら問題演習をした。全く勉強したことのない英米法をテキストを読むだけで深く理解するのは不可能だと思うので、割り切って問題演習で答えを機械的に覚えたほうがよいだろう(ほかの試験にもいえることだが、結果的に合格に必要なレベルの理解はそれで自然と得られるはず)。ただし、EU法(ブレグジットで科目から消えるかもしれないが…)は大陸法系なので、日本法の要領で理解がしやすく、テキストを読んで理解するだけで十分対応できた。
QLTS Schoolの問題演習で答えを見ずに正答率が7割を超えたのは2回だけだったが、本番は正答率76%くらいで合格した。本番の方が簡単だと思った記憶がある。
MCTに関しては、日本の弁護士であれば、英語さえ得意ならあまり苦労しないと思う。問題自体は司法試験(旧はもちろん、新も)の短答よりも素直で、問題演習を量こなしていればバシバシ肢が切れる。
問題はOSCEだろう。

OSCE (11月受験)
OSCEは年2回実施されており、4月だか5月だかに受けるつもりで出願したが、仕事が忙しいわ体調崩すわで全く勉強できず、受験を見送りキャンセルすることにした。キャンセル期限ぎりぎりだったので、受験料の何割かしか返ってこなかった。OSCEはめちゃくちゃ受験料が高いので悲しかった!!せめて飛行機キャンセル可能なやつにしといてよかった…
仕事も少し落ち着いた8月半ばくらいから対策を開始した。勉強時間は平日3時間+土日あわせて6時間で、合計250時間というところだろうか。もう少し早く始められていたら、もっといい対策ができたと思う。
QLTS SchoolはOSCE対策までコミコミのパックを取っており、10月頭くらいまでそれを使って勉強していたのだが、インプットばっかりで試験本番のイメージができないような教材になっていると感じた。チューターとやる模試みたいなの(Mock)がパックに含まれていたので何回か受けたが、ライティングも口述もボロボロだった。
これではまずいとおもっていろいろ調べたところ、OSCE SmartというOSCE対策専門の予備校を見つけた。日本の司法試験でいうとなんだろう…BEXAとか、私が受験したときくらいのアガルートみたいな感じだろうか。これにインプット講義(量少なめ)と模試が含まれていた。もう本番まであと1ヶ月というところだったが、思い切って全教材コミコミパックを購入した。なお、なかなかのお値段がするQLTS Schoolに比べれば、OSCE Smartは良心的な値段といえる。
QLTS SchoolのOSCEテキストのインプット量は膨大で、はっきりいって読み切るだけでも不可能だと思った。そこで、思い切ってこれらはやらず、OSCE Smartのレジュメ(全科目でたしか200ページもなかったような!)だけは完璧に覚え、あとはひたすら模試(Mock Exam)を受けまくって本番の感覚を磨くことにした。
この対策は結果的に当たりだった。OSCEは試験の構成自体がかなり独特である。たとえば、依頼人役の役者(!)と面談したあと、そこで得た情報に基づいて法的助言を記したレターを作成する、というのがある。おそらく、法的に難しい内容が出るというよりは、法的にはそこまで複雑でないが実務上ありそうなシチュエーションをどう処理するか、ということが問われている。
なお、そうはいっても、インプットの範囲が狭いので、当然本番はまったく知らん論点が出題されることもあった。受験後の感想としては「これはさすがにダメかもわからん」という感じだった(不合格だった予備試験口述よりよほど感触は悪かった)が、ふたを開けてみれば合格点63のところを74で受かっていたので、かなり出来はよかったということになる。
インプットに関していえば、一通り勉強した際に、「これは日本法の感覚で処理すればだいたい同じ処理になる」というところはもう復習せず、日本法とは異なるところ(例えばイギリスの不動産法は本当にわけがわからないことになっており、privity of contractだのprivity of estateだの日本法の感覚からすると全く意味がわからない概念が出てくる、とか、保釈の消極要件に新たに罪を犯す可能性があるとか、捜査段階で黙秘すると公判で不利益がある可能性がある*とか)のみ復習する、という方法が最善であるように思う。

*このブログは今のところは法律ブログではなく勉強ブログなので詳しくは述べませんが、ゴーン氏の件に端を発して、ツイッター等で、この規定について、誤解や不十分な理解に基づくと思われる法曹関係者等による言及が見られました。たとえば、初回の取調中にアリバイについて供述しなければハイそれまで、みたいな理解を前提にしていると思われる記載がありましたが、実際には取調べ後に、供述を書面にして捜査機関に提出することができます。

実際のE&W法上の根拠については、口述で正確に条文や判例を適示しなくても(多分)受かるし、ライティングの時はLexisとかのデータベースが使えるので覚えておく必要性は低い。
OSCEに関しては、かなりの英語力がないときついと思う。しかし、留学をすでに経験していたり、渉外案件を日常的に取り扱う弁護士であれば十分対応は可能と思われる。
英語がネイティブレベルでなければ、おそらく1,000時間くらいは対策にかかると思われるが、内容としては、上記で十分合格できると思う。

以上です。